らぶ5
あの後―謎の先輩に保健室に連れてこられた後、緋影はベッドで横になりながら体温を測っていた。
「これでいいすか?」
渡された紙に適当にサインして返す。先生は頷きながら、
「まあ、ちょっと熱があるけど大した事はないわね。解熱剤は渡しておくわ。それを飲んでも辛かったらまた来なさい」
グラスを手渡した。
カプセルの解熱剤をひんやりと感じられる水で流し込む。
礼を言いつつ保健室を去ろうとしたが、足が不自然に止まる。振り返り、自らの疑問をぶつける。
「俺をここに連れてきた人の名前は何て言うんすか?」
(なにしろ、全く記憶にないからな)
「あ〜。確かねぇ、葵……あおいみなみ葵皆海さんよ。あとで礼を言っておきなさい」
先生は考え込むようにそう言うと、他の生徒の診察を始める。
『失礼しました』と言って緋影は保健室を出た。
「……あおい、……葵、か?……南?三波?ミナミか、それとも?」
腕を組み、思案顔で歩きながらその名をぶつぶつと呟くが、やはり思い出せない。
それでもあまり深くは考えなかった。
熱っぽい頭が自分の記憶を不明瞭なものにしているのだろう。そのうち思い出すはずだ。
(……でも礼位は、言っておいた方がいいな)
「深山君、どうしてここにるの?」
女性独特の甲高い声。
「そういうお前こそなんでここにいるんだ?小川」
振り向いたそこには長い髪を一纏めにしたポニーテール。くりくりとした大きな瞳。人懐っこそうな笑顔が後光を受けて眩しく感じられる。後ろに両手を組んで自分を見つめている。
「教室に忘れ物しちゃって、今化学室に戻るとこ。そういう深山君は?」