あぶ14
(……見かけによらず大食漢、いや、男じゃなかったな)
喉をゴクリと鳴らしたが、感想は口には出さない。
「先輩、俺はどこであなたに会ったんすか?」
彼女の食欲はさておき、自分の疑問をぶつけてみた。何か記憶がぽっかりと抜け落ちている。そんな感じなのだ。どうしても初対面の気がする。
目の前の人物は溜息をつきながら、
「まあ、仕方がないかもしれませんね。あの時は深山君も余裕がなさそうでしたし」
視線を机に落とした。
「私は深山君に、他校の生徒に絡まれているところを助けてもらっているんですよ」
辺りを見渡し、葵は陽だまりのように微笑みながら告げる。
言われてみれば……そんな事もあったかもしれない。
自分から喧嘩はしないが、弱い者が絡まれている所に割って入ったことは数度あった。相手は大抵大人数なんだが、それほど手間がかかった覚えは無い。大竹ほどではないが、自分もある程度武術の心得がある。数人を一度に相手にしても滅多なことでは負けない。
「……そんなことも、あったかも、しれませんね」
区切るように、慎重に言葉を選ぶ。
ここで彼女の言う事を否定するのは流石に気が引けた。
「あの時は本当に助かりました。ありがとうございました」
そんなに深々と頭を下げられるとどうしていいかわからなくなる。