ろぶ12
思い出せないものは、思い出せない。嘘をついた所で、後でボロが出るのは目に見えている。それよりは正直に答えたほうがいい。
だが緋影の返答を聞いた葵は、ぷっくりと頬を膨らませた。
「もうっ!本っ当に覚えていないんですかっ?!」
「おい、緋影君。君と先輩は一体どういう関係でおっしゃられんですかい?」
何かおかしな敬語を使っている。しかも自分の事を『緋影君』と呼ぶなんて、
「熱でもあるのか、大竹?」
真顔で尋ねる。出来る事ならその不気味かつ異様な顔を近づけないで欲しいと切に緋影は願う。
「答えてくれますかね、緋影君?」
背中を虫が這う様な気味の悪い笑みを浮かべながら、テーブル越しに詰め寄る大竹の敬語を聞いていると、緋影の肌にぼつぼつと鳥肌がたった。
「先輩は俺に覚えがあるようだが、俺は覚えてはいない」
これ以上鳥肌を立たせたくなかったので詰め寄る大竹から顔を逸らす。
「はっはっはっはっ!そうかっ!覚えてないんじゃしょうがないっ!」
「……はあ」
大竹は腰に手をあてながら高らかに笑う。
そんな彼から視線を逸らし、やれやれとかぶりを振る。しかし、緋影は気付いた。
自分の目の前に座る人物の目に、一瞬鋭いものが浮かんでいた事に。
(……ん?)
だが、それは本当に一瞬で、葵の表情は見る間に残念そうなものになっていく。
「……そうですか。覚えていないんですか」
「すんません」