あらぶ11
人込みでごった返す学食の中、緋影は波を掻き分けるように前進し、何とか自分の席を確保した。息が心なしか上がっている。椅子を引いて座り、大竹に肝心の話題を振る。
「で、大竹、誰がその『先輩』なんだよ」
「へっへっへ、聞いて驚くな。その『先輩』とは……」
「あれ?深山君じゃないですか」
……どこかで聞いたことがあるような声。背後をゆっくりと振り返る。
「おっす!先輩!」
「あ、大竹君も一緒ですか」
それは今朝、緋影を引き摺って保健室に連れて行った人物。大竹がすちゃっ、と手を挙げたのに対し、柔らかな微笑みを浮かべている。
「……あおい……みなみ?」
「『先輩』だろうっ!」
勢いよく大竹が緋影の頭をはたく叩く。人込みでうるさくなければ、スパーンッ!と景気のいい音がなっているだろう。
「……なにしやがる」
「ははははっ!どうして手前が先輩に知られているんだっ!」
頭を擦りながら睨み付ける緋影の迫力はかなりのものだったが、こめかみのあたりをひくひくと引きつらせながら、笑顔で詰め寄る大竹の顔は緋影の何倍も不気味だった。
「私の事、思い出してくれたんですか?」
その『先輩』―葵皆海はにこにこと微笑みながら緋影の向かいの席に座る。
「……いや、保健の先生に聞いてみたんです。けど一向に思い出せないんすよ。俺と面識があるように言いますが、人違いじゃないすか?」